J.V.OはHACCPシステムを調査・研究し、畜産物に関わる業界関係者へ導入を奨めています。
農林水産省は平成21年8月に、HACCPを基礎とした衛生管理を実施している農場を認証する基準として、「家畜農場における飼養衛生管理向上の取組認証基準(農場HACCP認証基準)」を公表した。
農場HACCP認証基準は、第T部(総論)、第U部畜種別認証規範)からなっており、第U部は乳用牛、肉用牛、豚、採卵鶏、ブロイラーから構成されている。
第T部は、「第1章 範囲、引用文書、用語」「第2章 経営者の責任」「第3章 危害分析の準備」「第4章 一般的衛生管理プログラムとHACCP計画の作成」「第5章 教育・訓練」「第6章 評価、改善及び衛生管理システムの更新」「第7章 衛生管理文書リスト及び文書、記録に関する要求事項」からなっており、マネジメント活動とオペレーション活動とが含まれている。
つまり、オペレーション活動から生産された畜産物(鶏卵を含む)の品質と同時に、その農場がその品質の畜産物を継続的に生産するマネジメントの能力も問うものである。
認証基準は、組織の形態、規模、畜種を問わずあらゆる組織に適用できることを前提としており、普遍性・汎用性が求められることからマネジメントとオペレーションの基本を示すものとなっている。すなわち、基準は個々の事項を具体的に特定するものではない。従って、基準には幅があり、自農場のシステムは基準の幅の枠の内で独自に設計するということである。
分かりやすい例を挙げれば、第2章経営者のコミットメントに衛生管理方針の周知を挙げているが、具体的な方法は当該農場が定めることになる。いくつかの代替案を考え、その農場に最も適した方法を選択することができる代替案の着想と選択力が必要となる。
また、第4章一般的衛生管理プログラム(PRP)の確立とHACCP計画の作成の1.PRPの確立では、上記の理由から、当然ではあろうがPRPの具体的な確立の方法は示されていない。
家畜の衛生管理8要件に基づく危害分析と、全米製造業協会(GMR)が推奨する書式とを組み合わせた手法を活用する能力が必要となる。
これらのことは、認証基準におけるマネジメントは、安心で安全な畜産物を生産するオペレーションをマネジメントすることであり、基準の幅の中で独自のシステムを設計し、これを運用するにはHACCPに精通し、オペレーション活動についての深い理解を基にした分析・改善能力が要求されるということを示している。
このような能力を有する人材を育成することが、認証基準を推進するための喫緊の課題である。
システムを設計し、運用する人材の育成とともに、認証基準に適合するかどうかを審査する検証員の育成も同時並行して進めなければならない。書類を重視するという考えに支配される人が審査すると、書類の山を築くことになり、コストがかさみ、非効率をきたす。最悪の場合には体裁を整えるため、改ざんや偽造へ向かわせることにまでなる。
オペレーションがやり易く、畜産物の安心・安全に向けて安定したオペレーションの持続と、継続的な改善を重視した、現場中心の視点から審査できる検証員の育成を急がなければならない。
今回示された認証基準は、畜産物を生産する農場の基準である。農場から消費者に届くまで、“フードチェーン”をつながなければ、消費者の安心・安全は確保されない。
加工、流通、小売まで、農場から下流の衛生管理をどのようにつないで行くかがもう一つの課題である。
農場HACCPの認証基準が公表されたことは、畜産物の安心・安全のより一層の向上を願う消費者の声に応えるものとして、また、優れたわが国の畜産物の輸出を後押しするという観点から歓迎されるべきものである。
認証基準が意図する目的を実現するためには、いくつかの課題が横たわっている。これらの課題を着実に、遅滞なく解決することが望まれる。
NPO法人日本食品安全検証機構は、真摯な姿勢で専門家、関係者、関係団体の協力のもと、これらの課題解決に貢献することを活動のフィロソフィーとしています。
農場HACCP認証基準はこちらから
第U部は、乳用牛、肉用牛、豚、採卵鶏、ブロイラーについて、畜種別に家畜(家禽)の衛生管理規範が示されている。それぞれの規範の1.〜8.は、コーデックスの「食品衛生の一般原則」示す8要件に沿って、「1.施設の設計及び設備の要件」「2.施設・設備及び機械・器具の保守及び衛生管理」「3.原材料(素畜、飼料、使用水)」「4.家畜(乳用牛、肉用牛、豚、採卵鶏、ブロイラー)の取り扱い」「5.出荷畜産物(牛乳、肉用牛、豚、卵、ブロイラー)の運搬」「6.出荷畜産物(牛乳、肉用牛、豚、卵、ブロイラー)に関する情報及び出荷先の意識」「7.従事者の衛生と安全」「8.従事者の教育・訓練」において満たすべき事項が示されている。「9.重要管理事項」は、8要件とは別途に重視すべき事項が示されている。
第T部では、第U部の畜種別衛生規範はGeneric Modelであり、“一般的衛生管理プログラム(PRP)の確立(作成)において参考にする”ものとしている。
つまり、それぞれの農場のPRPは第U部で示された畜種別衛生管理規範を“なぞって”作成するものではないことを明記している。
これは、農場にはそれぞれに個性があり一律ではないので、それぞれの農場の特性に合った衛生管理を設計することを示唆するものと理解できる。
PRPはどのようにして確立(作成)するかについては、上で述べた(第T部)ように、基準には幅があるので枠の内で独自に設計するということである。
NPO日本食品安全検証機構は、10年余にわたって現場での実践を通して検討を重ねてきた、家畜の衛生管理8要件に基づく危害分析と、全米製造業協会(GMR)の書式とを組み合わせた手法を推奨したい。
畜種別衛生規範の「9.重要管理事項」は、重視すべき事項として示されているもので、HACCPについて基本的な知識を有する人にとっては、誤ってこれをCCPとしてはならないことは周知のことである。
CCPはHACCPの12手順7原則に従って正しく危害分析を行うことによって決定しなければならない。
農場HACCP認証基準がわが国の畜産物のより一層の安心・安全に資するものとなることを心より期待したい。
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